今後の生命線となる人財による「顧客の愛着獲得力」
~ユーザー調査による効果のデータ検証~

弊社取締役、白木節生が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人 日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の12月号に寄稿したレポートをご紹介いたします。

今後日本では少子高齢化がさらに本格化し、保有が減少に転じることは避けられない。また世界的に電動化が進む見込みの中、海外メーカーではEVの生産コスト上昇分を流通コスト削減で調整すべくオンライン直販で販売する動きも増えてきている。またEVが主流になればサービス収益への影響も懸念され、将来ディーラーの経営は激変期を迎える可能性があり、その前までに生き残りのための力を蓄えておくことが肝要である。
 今後ディーラーの生命線となるのは、顧客に最も近い立場の優位性をフルに発揮すべく、「人財力」の強化を通じて「顧客からの信頼、愛着」を獲得し、そうした顧客層の厚みによって経営の基盤を強固とし、時代の変化への耐性を高めることと考える。
 そこで弊社現代文化研究所が本年10月に実施したWEBユーザー調査(全国の自動車保有者2452名)の結果を用いて、顧客との関係性がディーラー経営に及ぼす影響をデータで検証する。

1.将来の経営力を高める重要な指標

 まずユーザーからの評価に関する指標については、近年は顧客満足度の5段階評価よりも精緻に11段階(0点~10点)で評価を測定する手法が世界的にかなり浸透している。
 
 米国で開発されたネット・プロモーター・スコア(NPS)は、11段階のうち、9~10点を愛着の高い顧客として「推奨者」とし、7~8点は満足ではあるが流出のリスクもある「中立者」と名付け、0~6点はネガティブな「批判者」として評価しており、「推奨者」の比率から「批判者」の比率を差し引いた比率をNPSスコアとし、世界の小売・サービス業でその指標を重視する企業も多い。
 
 今回の弊社調査で、車の購入先への評価を11段階で尋ねた所、図1のような結果となった。

 ディーラーで新車又は中古車を購入した顧客のうち、10点満点は13%、9点は17%、7~8点は52%、0~6点は19%であった。ディーラー以外での購入者より総じて評価は高いが、大差はない。
 
 その評価別の「他者への紹介実績・意向」の回答率を見ると、10点満点の場合に大きな成果が見られ、9点以上は確かなプラスの効果が確認できる。(図2)

 そのため、段階評価では10点満点を目指し、9点までの比率を高めることが重要となる。紹介実績や意向がある人の特徴は、以下で触れていく。

2.愛着獲得力による経営への効果の検証

 次に顧客の評価レベル別の点検・整備及び用品購入での購入先利用状況を見ると、年間の利用回数、メンテナンスパック加入率、年間に支払う金額に占める比率、任意保険加入率とも、総合評価10点満点や紹介実績・意向者(是非紹介したいという人)で、特に高いことが確認できる。(図3)

 なお弊社の別の調査では、年間で点検・整備と用品購入に支払う金額の平均値は約11万円であり、今回調査での総合評価10点の人の購入先利用の比率をあてはめると、9.2万円に対し、0~6点の人は5.6万円であり、3.6万円もの差がある。仮に8年の保有期間だとすると30万円近い売上の差が、1人の顧客で生まれる。
 
 さらに注目すべきは、前保有車の購入先及び主要入庫先が、現保有車購入先と同じ人の比率も、店舗総合評価や紹介実績の違いが、大きく連動している点である。総合評価が10点の人では、6割の人が前保有車でも利用をし、利益に貢献してくれていたことになる。(図4)

 加えて、世帯の併有車(うち最も最近の購入車)の購入先及び主要入庫先に関しても同様に、店舗総合評価や紹介実績の違いが大きな影響を及ぼしている。
 
 以上見てきたように、店舗総合評価が10点満点であることや、紹介実績・意向があることが、現保有車の保有期間中のバリューチェーン収益に大きな寄与をもたらすばかりでなく、それらの優良顧客は、長い時間軸で、安定的な収入をもたらしてくれているケースが多いことがデータで検証された。
 
 また併有車での利用や複数の知人への紹介による効果も考え合わせると、そうした顧客からの恩恵の総和は想像以上に大きなものとなり、改めて顧客の信頼形成の重要性が理解される。
 

3.愛着を形成する要因の分析

 さて、それではそうした経営を支えてくれるロイヤルティ(忠誠度)の高い顧客を増やすにはどうすれば良いのであろうか?
 
 そこで、現保有車の購入先を積極的に利用する理由(複数回答)から、それを見てみる(図5)。

 最も多い理由は、「担当者が丁寧に対応してくれて信頼できる」で56%。次いで「自分の車の状況をよく把握し、適切な提案をしてくれる」が29%、「担当者に何でも相談ができ、親しみを感じる」が27%、「整備の技術力が信頼できる」が27%、「車の購入後に、こまめに情報提供や調子伺いがある」が22%と、これらが主要な理由となっている。
 
 また店舗総合評価が高い人や紹介実績・意向がある人で多い理由を見ると、「担当者が丁寧に対応してくれて信頼できる」と「担当者に何でも相談ができ、親しみを感じる」の比率が特に高いことが特徴である。さらに「頼んだことに迅速に対応してくれる」と「担当者以外も含め、店舗全体に信頼を持てる」が他の層に比べて顕著に高い点も特徴である。
 
 これらから、プロとしての専門的スキルへの信頼がベースとなり、人間的な親しみ・愛着が加わって高いロイヤルティが形成されているようである。
 
 プロの信頼と心の交流を促す人間性(温情など)といったヒューマンファクターが最重要な要素と考えられる。
 
 総合評価が7~8点であっても、顧客は一応満足ではあり、表立った現象からは企業側で気づくことも難しいが、10点満点の顧客を量産できる企業との成果の差は静かに広がり、積み重なっていくものと考えられる。
 
 一方、「価格が安い」という点は、ディーラー利用者の場合、重視点とはされておらず、また「営業時間」や「引き取り納車」も顧客側で重視する人は少ない。
 
 従って顧客が本当に重視する前述のポイントさえおさえていれば、営業時間短縮や引き取り納車削減をしても問題は少なく、そこで効率化しESを高め、重要ポイントを強化する方が賢明と考える。
 
 また別の質問で「この車の購入先のスタッフにはプライベートな話をどの程度明かしているか」を尋ねると、「基本的にプライベートな話はしないようにしている」人が32%、「自分から質問したいことや、店舗スタッフから聞かれたこと以外に、プライベートな話は伝えない」人が31%と多いのに対し、「友人と話すように、雑談も含め、プライベートな話を積極的にしている」は15%と少ないのが、全体的な傾向である。(図6)

 ところが、店舗総合評価が10点の人は 「友人と話すように、雑談も含め、プライベートな話を積極的にしている」が26%と高く、既に紹介実績が1~2人の人は34%、紹介実績が3人以上の人は40%にも及んでいる。
 
 このデータで分かるのは、店舗評価の高さと、心を許し情報を開示する度合いは、非常に連動性が高いことである。
 
 顧客との信頼関係、親近感を醸成するほど、顧客から様々な貴重な情報や改善への率直な意見を引き出すことができ、その情報を生かして信頼・愛着をさらに高めるパーソナルなサービスを提供できるという好循環が生まれることも納得できるのではないだろうか? 
 
 売り手と買い手の関係も超えた心の交流を通じ、共感・愛着を持って応援する気持ちまで持ってくれるファン層は、無料で広告宣伝機能まで担ってくれる。
 
 現在のネット社会は情報が溢れており、見聞する情報の中で何が信頼に値するかの判別が難しい世の中になっている。
 
 宣伝情報への信頼度が下がっている中では、日頃信頼している人から根拠を持って紹介されることは、紹介される側も安心であり、そうしたファン層の顧客が自発的に自社の店舗を熱く推奨してくれることは、何よりも効率的で効力も高いマーケティングになる。
 
 最後に、そうした顧客との強い信頼関係・愛着を獲得できる自社スタッフの「人間力」の育成が最大の課題となる。
 
 それには経営者自身の意識のあり方や方向性が最も根源的要因となるが、組織全体で「どういう姿を目指すか」を明らかにし、目線とモチベーションを共有した上で、行動の細部に至るまで粘り強く協力し研鑽し合っていけるかなど、風土と仕組みの整備にかかっている。
 
 自社に合った具体的な進め方について、好事例の紹介などサポートが必要であれば、弊社にお気軽にご相談ください。

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担当: 株式会社 現代文化研究所 白木 節生