社会規範と帰省ラッシュ:休暇を分散し、お盆の渋滞の減少を

まもなく夏のお盆を迎える。この時期は帰省ラッシュが発生するのが恒例で、高速道路でも激しい渋滞が発生する。渋滞がもたらす損失は大きいが、休暇を取りやすい社会にし、旅行の日取りを分散させ、激しい渋滞を緩和させることはできないだろうか。

弊社主事研究員/菊地悠人が以下に考察・提言します。

渋滞による膨大な損失

 渋滞でどのくらい時間的損失が出ているのか。渋滞等がない時と比較して余計に掛かる時間(以下「渋滞損失時間」)のデータが国交省から出ている。それによると、2017年の夏のお盆期間(12日間)の高速道路で、渋滞損失時間が1,194万人・時間発生していたという(注1)。これを金額的に置き換えて簡易に計算すると、少なめに見積もっても180億円の損失となる(注2)。他にも、燃料の無駄が生じ、環境への負荷も高まる。渋滞でイライラする人もいるであろう。コロナ後はやや改善しているものの、依然として長い渋滞が発生しており(注3)、夏のお盆という短い期間、かつ高速道路だけで、大きな損失が発生している状況である(注4)

表. 令和4年(2022年)の夏のお盆期間に発生した、NEXCO各社・本四高速での最長渋滞
出典:NEXCO3社・本四高速『お盆期間における高速道路の交通状況(速報)【全国版】』

皆が同じタイミングで出掛けることが問題

 渋滞の原因についても冒頭の国交省の資料で出ている。時速40km以下の渋滞と定義されるもののうち、65%は交通集中によるものであるという(この他、事故が19%など)。つまり、移動の時期を分散させることができれば、渋滞損失時間を一定程度減らせる可能性がある(注5)。資料は夏のお盆期間のものだが、ゴールデンウィークやシルバーウィーク、年末年始、または通常の週末に発生する渋滞においても、同じことが言えるのではないだろうか。

図. 渋滞損失時間の要因
出典:国土交通省『平成29年お盆期間 渋滞ランキングのとりまとめ』※筆者加筆

「休暇を取りづらい」雰囲気がある

 移動の時期を分散させるためには、休暇そのものを分散させることが一つの手段となる。

 旅行の日取りには、お盆であれば他の親族の都合であったり、あるいはイベントの開催日等もあるため、休暇の取りやすさが必ずしも影響を与えるわけではないが、分散させる余地は増えるであろう。

 しかし、旅行や帰省のための休暇はそう簡単に取れるものなのだろうか。そこで休暇の取得に関する調査(労働者5,000人へのアンケート)(注6)をみてみると、 

(a)希望通りの日数、時期で有給休暇を取れているか
調査の前年(2021年度)に有給休暇を取得した人は70.2%(3,510人)であり、その中で希望通りの日数を取れていない人は9.8%、希望通りの時期に取れていない人は8.0%。
(b)希望通りの日数の有給休暇を取れないのは何故か
複数回答で、上位3つは「仕事の量が多過ぎて休んでいる余裕がなかった」(47.8%)、「休むと職場の他の人に迷惑になると考えた」(37.0%)、「休みの間仕事を引き継いでくれる人がいなかった」(28.6%)。その次に「上司がよい顔をしない様子だったから」(19.5%)、「職場の周囲の人が有給休暇を取得していなかったから」(16.0%)と、業務上やむをえない状況とは少し異なる理由も一定数。
(c)職場で有給休暇を取得しやすい雰囲気はあるか
全体(5,000人)の集計で、取得しやすい雰囲気があると思わない人が34.3%(4段階評価の否定側2段階の合計)。
(d)有給休暇を取得する際にためらいがあるか
全体の集計で、ためらいを感じる人が41.1%(4段階評価の肯定側2段階の合計)。
なお、(c)・(d)で有給休暇を取得しやすい雰囲気があると思わない人や、取得する際にためらいがあるという人ほど、有給休暇の取得日数が少ない傾向もみられる。

という結果であった。

人間は周囲の影響を受ける

 以上のように、職場が要因となって休暇が希望通り取れない人が一定数いる。その理由として業務上の都合でどうしても取れないケースがあれば、雰囲気が理由というケースもみられる。両者は明確に区別できない部分もあるが、雰囲気が一定の影響を与えていることはいえるであろう。

 人間は同調するもの、すなわち集団や他者の設定する標準や期待に沿った行動をしてしまうものである。集団の成員の大多数が共有する判断の枠組みを集団規範や社会規範というが、勤務先や社会全体で「周りが休暇を取らないから自分も取りづらい」「遊びにために休暇を取るのは控えるべき」という雰囲気ができているのだとしたら、それはまさしく集団規範や社会規範といえよう。

 しかし、もし「雰囲気」だけが理由で休暇を取れず、混雑する時期に皆が旅行をし、結果として膨大な量の貴重な時間が失われてしまうのだとしたら、それこそ社会的にみれば望ましくない事態である。

社会規範を変えていくことが望ましい

 業務上どうしようもなく休暇を取れないというケースは別として、このような社会規範は少しでも変えていくことが望ましい。社会規範を変えるためには、休暇と移動の集中により膨大な損失が発生しているという事実と、休暇をずらせば渋滞に遭わずに済むかもしれないというメリットが多くの人に理解され、「休暇を取ってよい」「他の人と違う時期に休んでよい」という機運が醸成される必要がある。これには、使用者側、労働者側(労働者同士で牽制しあっている職場も多いと思われる)ともに態度が変わっていくことが望まれる(注7)。態度という「心」の部分だけでなく、労働者が実際に休暇を取りやすくする「仕組み」もあると、より休暇の取得は進むだろう。これについては、行動経済学で取り上げられるようなナッジの活用も考えられる(注8)

 コロナ禍直前に行われた別の労働者調査をみると、年5日以上の有給休暇取得義務化の影響等もあり、「近年休暇が取りやすくなった」という結果が出ている(注9)。これに加え、コロナ禍を経た今、労働や休暇に対する考え方はさらに変わってきているのではないかというのが筆者の個人的な見解である。行政としても取り組みを推進しており、例えば愛知県で「休み方改革」というプロジェクトを開始している(注10)。この中では、社会人のみならず、子供たちの学校の休み方に触れていることにも注目したい。

おわりに

 この記事を執筆している最中に、今年の夏休みの国内旅行者数がコロナ禍前と同水準に戻るという推計(注11)や、高速道路ではピーク時に45kmの渋滞が発生するという予測が出された(注12)。旅行者数の回復自体は経済各界に良い影響をもたらす一方で、このような渋滞や混雑、オーバーツーリズムといった悪影響を与える可能性も否定できない。

 ここで挙げた旅行の日取りの分散は、高速道路に限らず、交通機関全般や旅行先各地の混雑緩和にも貢献するであろう。今後さらに休暇を取得しやすい社会に変わり、その結果として少しでも多くの旅行者がストレスフリーに移動できる社会になることを期待したい。 

注釈・参考文献

(注1)国土交通省『平成29年お盆期間 渋滞ランキングのとりまとめ』より。平成29年8月5日~平成29年8月16日のNEXCO3社と本四高速の道路渋滞のデータが集計されている。ここには、高速道路の「渋滞」の定義には含まれない時速40km以上の走行も含まれている。

(注2) 国土交通省『時間価値原単位および走行経費原単位 (平成20年価格)の算出方法』より。自家用車の時間価値原単位は、非業務目的のドライバーの機会費用が28.87円/人・分、非業務目的の同乗者で24.94円(乗合バスの乗客(非業務目的)も同額)。ここでは簡易的な計算として、一律で25円/人・分とおいた。その結果、

25(円/人・分)×60×1,194万(人・時間)=179.1億(円)

となった。なお、業務目的の場合は機会費用が上記金額より高くなる(業務目的の自家用車のドライバーで43.95円)ため、この計算は低く見積もっている可能性がある。

(注3) NEXCO3社・本四高速『お盆期間における高速道路の交通状況(速報)【全国版】』より。2022年は2019年と比べ、1日あたりの平均交通量は89%、1日あたりの平均渋滞回数(10km以上)は60%に減少している。一方、表のとおり2022年も激しい渋滞が発生している。

(注4)世の中には渋滞そのものを楽しむ人もいるかもしれないが、少数派と考え、ここでは考慮しない。あくまで渋滞は減らすべきものとする。

(注5)高速道路の利用を減らすという観点では、一般道の利用や鉄道・航空の利用もありうるが、一般道での渋滞の発生、鉄道や航空も既に混雑している、という問題がある。なお、日程の分散以外にも、同じ日の中で移動時間をずらす(例:朝ではなく、午後に出発する)ということを考えても良い。

(注6) 厚生労働省(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社受託)『令和4年度 「仕事と生活の調和」の実現及び 特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査』より。企業調査と労働者調査の双方を行い、労働者調査では5,000人の回答を回収。

(注7)もし「本当はもっと休みを取りたいのだが、周りは嫌な顔をしそうだ」とお互いに思っている場合(多元的無知という)、「実はみんな休みたいと思っている」ということを周知することで、社会規範は変わりうる。#Me TooやBLM運動の広がりも、その一例である。

(注8)例えば、「休暇を取るかどうか」ではなく、「いつ休暇を取るか」を労働者に考えさせる仕組みはどうだろうか。前者では「休暇を取らない」という選択肢が浮かんでしまうが、後者では休暇を取ることが前提になるため、休暇を取る心理的ハードルは下がると考えられる(デフォルト、アンカリングの活用)。

(注9)独立行政法人労働政策研究・研修機構『年次有給休暇の取得に関するアンケート調査(企業調査・労働者調査)』(2020年1月~2月に実施)より。労働者への「3年前と比べて有給休暇を取りやすくなったか」の質問に対して、52.1%が「かなり取りやすくなった」または「やや取りやすくなった」と回答している。「かなり取りにくくなった」と「やや取りにくくなった」の合計は3.7%、中立は35.9%(無回答8.2%)。

(注10)愛知県の「休み方改革」プロジェクトでは、ワーク・ライフ・バランスの充実と生産性向上による地域経済の活性化を目指している。この中には職場だけでなく学校での取り組みも含まれており、家族の休みに合わせて子どもが学校外で活動できる仕組みとして、ラーニング(learning)とバケーション(vacation)を合わせた「ラーケーション(learcation)」を掲げている。

(注11) 株式会社JTB『2023年夏休み(7月15日~8月31日)の旅行動向』より。

(注12) NEXCO3社・本四高速・日本道路交通情報センター『お盆期間の高速道路における渋滞予測について【全国版】』より。

【参考文献】
湯川進太郎、吉田富二雄 編『スタンダード 社会心理学』サイエンス社
森津太子『社会・集団・家族心理学』放送大学教材
リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン(遠藤真美 訳)『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』日経BP

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  • 本件お問い合わせ先:現代文化研究所 主事研究員 菊地悠人