コロナ禍で静かに進んでいた中国による東南アジア電動化

弊社主任研究員町田倉一郎が、最近注目されている東南アジア自動車市場における電動化について、実はコロナ禍の中で静かにバッテリーEV(以下BEV)の普及が始まっていた東南アジア唯一の内陸国、ラオスについて、レポートします。

1)電動化の効果が高い東南アジアの内陸国ラオス

 最近注目されている、東南アジア自動車市場における電動化だが、実はコロナ禍の中で静かにバッテリーEV(以下BEV)が普及していった国がある。東南アジア唯一の内陸国、ラオスだ。

 ラオスは国土面積が本州よりやや大きい24万平方キロメートル、国土の7割は高原や山岳地帯で、人口は734万と非常に少ない。一方で、北は中国、東はベトナム、南はカンボジア、南西はタイ、西はミャンマーの5か国と国境を接する、東南アジアの背骨のような位置にある。首都はタイとの国境近くにあるヴィエンチャン。山岳地帯が国土の多くが占めることから、ラオスの電力構成(発電量ベース)は、水力発電が71.2%、褐炭火力発電が28.4%、太陽光その他が0.3%と、水力発電が大半を占める。ノルウェーの95%には及ばず、一人当たりGDPは2,599ドル(2021年)と東南アジアでもカンボジアに次いで貧しいながら、電力構成としては実は電動化に適した国ともいえる。

2)コロナ禍に中国の支援などを通じて浸透したBEV

 2020年からコロナ禍が始まり、ラオスも他国同様に国境検疫が強化され、実質的な入国が難しい状況になった。こうしたことから、日本の支援で旅客ターミナルを整備したワッタイ国際空港も閉じ、エアポートバスを含む京都市交通局からの寄贈による路線バスも、一部路線の運行が中止された。日本のJICAも実質的に活動ができなくなる中、中国は支援を加速させる。「ヴィエンチャン低炭素開発地区・中国気候変動南南協力プロジェクト」として、BYDの大型バスなどを寄贈。「GreenBus」として通常のバスより高めの運賃設定により、第一タイ・ラオス友好橋などとの間で運行を開始。また、コロナ禍の2021年12月に貨物列車のみの運行で中国・雲南省の省都昆明と、ラオスの首都ヴィエンチャン郊外を結ぶラオス中国鉄道が開業するなど、中国との結びつき強化が続いた。

 2022年5月9日、入国時の検疫緩和に先立つ2022年4月にラオス中国鉄道の旅客営業が始まり、郊外にあるヴィエンチャン駅とヴィエンチャン都心との間でバス運行が開始。そこで、同年7月初旬に同国を訪れた。すると、以前ヴィエンチャンを訪れた際(2019年9月)とは明らかな変化が起こっていた。急速にBEVが普及していたのだ。

 ラオスは左ハンドル右側通行の国で、右ハンドル車は禁止。一方で低所得国のため海外からの輸入中古車が自動車市場の大半を占めていた。乗用系は日本から中古車を輸入して左ハンドルへコンバージョンして販売していた。また、小型トラックなどの商用車は韓国から中古車を輸入していた。しかし、経済発展に伴う保有台数増と大気環境汚染を理由に2012年からはトラック、バス、建機以外の中古車輸入が禁止され、現在では新車のみの市場となっている。

 コロナ禍前までは、富裕層が日本メーカーのSUV、新興中間層が日本メーカーまたは韓国メーカーのコンパクトセダンや2BOX、または上海汽車系のMGブランドのSUVという構成だった。それが、コロナ禍明けの2022年7月には、明らかに街を走る車のブランドに変化が起こっていた。最も目立ったのが、VW(フォルクスワーゲン)のID.4。そしてBYDの元PLUSやe2だ。また、上汽通用五菱の宏光MINIEVも走っており、ヴィエンチャン初のショッピングモール前には、宏光MINIの巨大な広告も掲示されていた。また、そのショッピングモール内のイベントスペースでは、VWと広州汽車の自主ブランド「伝祺(Trumpchi)」のSUVが展示され、その隣に新しく開業したショッピングモールでも、トヨタのショールームの向かいに「紅旗」の高級車が展示されるなど、中国メーカー主導による変化を強く印象付けた。

 ラオスの自動車市場は、2015年の年間新車販売台数は約35,000台だったが、コロナ禍とその影響によるラオスの通貨キープの下落、燃料価格の高騰などもあり、2022年の年間新車販売台数は約10,000台まで縮小した。しかし、その中でEVの新規登録台数は1,400台と14%を占めるに至っている。景気が悪化する中でBEVが売れた背景だが、現地で話を訊いたところによると、コロナ禍で原油価格が急騰した際に「ガソリンスタンドが週に1回した営業せず、大行列になった」とのことだったので、ガソリン価格が急騰して買い付けができない中で、7割超が水力発電という自国の電源構成が「実はラオスはBEVに向いた国だ」として、見直されたのかもしれない。また、ラオスにとって電力は主要な輸出品目にもなっており、タイやベトナムから発電所建設投資を多く受け入れている。一方で、国内の電力グリッドが整備されていないため、地域によっては「契約に基づいて電力を輸出したら自国が電力不足になり、改めて高い価格で電力を輸入せざるを得ない」という状況も発生している。JICAはこうしたラオスの電力グリッド改善を支援しており、今後こうした状況が改善されれば、周辺国への電力輸出と自国内の電力消費が効率化され、BEVの普及にプラスとなることが考えられる。また、5か国と陸地で国境を接するラオスが、東南アジアにおける「電力供給の背骨」のような立ち位置を獲得するかもしれない。 

3)公共交通の電動化や燃料価格の高騰が新興国のBEV普及を加速する

 BEVに対する考え方として、以前は「BEVは高額だから新興国よりも先進国で進む」という観方が多かった。発電量も大きくないため、電力を大量消費するBEV導入よりも、家電普及の方が国民生活の質を向上させるということもあったのかもしれない。しかし、大気環境汚染の深刻化などから「①中古車輸入禁止」のうえで「②バスなど公共交通機関の電動化」が進むと、国民の多くが古いバスのような排ガスを出さないBEVバスを目撃し、乗車経験を得ることで、BEVに対して強い興味と肯定的な意識を持つのではないだろうか。そのうえ、中国メーカーが割安なBEVを供給すれば、既存の自動車メーカーへのイメージが希薄な初めてクルマを買うような新興層にとって、BEVは特別な価値を持ちそうだ。

 こうした状況は、アフリカなどでの電話普及において、先進国のような固定回線の普及を経ず、一足飛びに携帯電話が普及した過去を想起させるため、その動向に注目している。

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コロナ禍で静かに進んでいた中国による東南アジア電動化
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本件問い合わせ先:株式会社現代文化研究所 主任研究員 町田倉一郎