モビリティが牽引する新たなビジネス機会の創出

社長 須藤慶治、主任研究員 中野直哉

3月から大手IT通信会社によるローカル5Gの市場導入がついにスタートした。今後、5Gの本格的な市場導入により通信技術がさらに加速していくと予想される。一方、クルマには通信モジュールの標準搭載化が進行中であり、常時つながるコネクテッドカー時代が到来する。
通信やAIなどの技術革新が進むことで「自動運転」に一層の注目が集まりそうだが、もう一つ重要な視点は、クルマが「つながるモビリティ」という機能を備えることで、日本の社会インフラのハード・ソフト両面で大きく貢献していく可能性が期待できることだ。

1.ハード、ソフトともインフラ整備は待ったなし

まずハードインフラ面に目を向けると、日本のインフラ設備は更新時期を迎えている。昨年11月、来る東京オリンピク用に新国立競技場が完成した。実に62年ぶりの新築更新である。
今後20年間でハード面のインフラ設備は、建設後50年以上経過する施設の割合が急速に高まり、一斉に老朽化していくと想定されている。

政府は、国土インフラ見直し策として、2014年からアクションプランを進め、防災の観点から国土強靭化計画を展開、近年の災害多発化を踏まえた形で、昨年6月に国土強靭化計画2019を策定し、特に今後3ヵ年で集中的に実施すべき対策を取りまとめている途上にある。
建設後50年以上経過する社会資本の例 (国交省資料)

ソフトインフラ面では、デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応問題がある。DXは、ステップアップしつつあるデジタル技術を活用し新たなビジネスモデルを創出することで、社会そのものを変革変容させていこうというもの。しかしながら、官民のIT技術の現状は、デジタル化は進展したもののビジネスの枠組みは限定的な範囲に留まる。約8割の企業が、システムの老朽化や肥大複雑化やブラックボックス化など所謂レガシー問題を抱えており、課題解決できない場合、2025年以降最大12兆円/年の経済的損失を招くという試算もある。(経産省資料) DX時代の到来を迎え、これまでの企業内業界内あるいはフィジカル空間という部分最適の問題解決から、業界横断的でフィジカルからサイバー空間までつながる全体最適化への対応がまたれている。

2.モビリティによるDX時代が本格化

トヨタが2020年までに車載通信機(DCM)の標準搭載計画を発表し、各社ともここ数年のうちにコネクテッド機能を整備していく見通しである。これにより、5G通信技術の市場投入の本格化と相まって、注目の自動運転が一段と加速する環境が整うことになる。
そしてこのコネクテッド機能こそが、DX時代に大きな役割を果たすことが期待できる。

例えば、高度な通信データ処理機能を持つモビリティは、画像処理機能とAI技術を駆使することで、路面や縁石やトンネルの使用耐久状況を把握が可能となり、これまで難しかったハードインフラのメンテナンス管理としてビジネスチャンスを創出することが考えられる。

ソフトインフラの活用面でも、移動に関するデータ情報の一元化と業種を超えた共有化が進めば、これまでのモビリティ業界の枠を超えたノンモビリティ業界との新たなビジネス展開が起きる可能性は高い。移動情報に留まらず生体情報を組合せるようなことができれば、生体認証によるセキュリティ問題対応に加えて、健康管理面でも新しいビジネス展開が可能となる。こうしたモビリティを起点とした社会の変容が起きることで、DXが進展することを期待したい。

3.モビリティ整備からスマートシティづくりへ

モビリティデータを積極的に活用できるかどうかがスマートシティ・スマート国家づくりに関わってくる。
本来は、まず将来の生活しやすい環境を整えること、即ち中期的な街づくりの全体像を軸に発想すべきだが、余りに技術革新スピードが激しいため、出来ることからどんどん実証実装をおこない実用化の目途をつける、という現実的なアプローチをどこも採用している。

この本来の街づくり全体像づくりに取り組む国として、シンガポールがある。シンガポールはKPMG(大手会計会社)による「自動運転対応指数」で2年連続2位と選ばれるなど、モビリティ導入に積極的な姿勢が認められている。(日本は昨年10位、一昨年11位)

彼等のスマート国家づくりの骨格をなすものに、「デジタルツイン」構想がある。全ての現実世界とサイバー空間のデータをシームレスにつなげることで、全体最適の視点による効率化に取り組んでいる。モビリティデータの活用が国家/都市レベルでおこなわれることで、どんなビジネスの創出がおきデジタルトランスフォーメーションの起爆剤になっていくのか、今後の展望を注視していきたい。

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