ニュース&モビリティレポート

NEWS & REPORT

2020.09.17

社員コラム

新型コロナ禍で米中の技術覇権争いはさらに先鋭化
~モビリティの先進技術応用、自動運転車両でもヒートアップ~

上席主任研究員 清田麻喜子

世界的な新型コロナウイルス禍で、IT・デジタルを活用した非接触型ライフスタイルが新常態となるなか、デジタル・先進技術力が国力の源泉になりつつあるが、対立を深める米中間では、技術水準が拮抗する先端技術分野での覇権争いはさらに激化すると予想される。自国の製品技術で世界市場の席巻を目指す両国のつばぜりあいは、自動車産業分野でも、AIをコア技術とする自動運転車両に表れるだろう。圧倒的な官・民パワーで対峙する米中技術競争の対立軸のなかで、日本は国際競争力確保の一つの選択肢として、車両の開発段階での技術、品質、安全要件の規格化とその国際展開を通じて、自動運転に必要な技術の連合体の輪を広げていく取組みも模索中だ。

米中のデジタル・先進技術競争:AI分野でヒートアップ

中国は、一帯一路の広域経済シルクロードに続き、通信インフラ(5G分野)ネットワークの構築とAI関連技術の中国版標準の展開によって新興国を中心に覇権構築を目指すデジタルシルクロード戦略を推進している。
5G分野では研究開発力や設備投資力で既に、中国は米国を凌駕しており、AI分野でもコア技術の特許出願件数は増加を続け、特に2016年の2,844件から2017年は6,858件と急増し、米国(2016年4,170件、2017年5,954件)を抜いてトップとなった。(図1参照)。また、WIPO(世界知的所有権機関)によれば、AI技術の特許出願元をみると、米国では民間のIBMが、中国では国務院(国家直属)のハイテク総合研究機関の国家科学院が出願数でリードしており、中国は国をあげてAI技術に注力していることがわかる。

さらに、AI技術の産業別特許出願件数(図2)をみると、輸送分野の出願件数は2013年~2016年の間に134%伸びており、他の分野に比べて出願数の伸びが顕著となっている。輸送分野は自動運転車両や車両認知に関連する技術が中心で、世界的に自動運転技術開発に傾注しており、前出の米国と中国のAI技術特許出願件数の急増と重ねれば、米国も中国もAIやAIをコア技術とする自動運転車両において主導権をとりたいと考えている。

■図2 産業分野別AI技術特許出願件数(2013-2016年)

出典)WIPO

なお米国は、中国の先端技術分野での研究開発の急加速を国家安全保障の脅威と捉え、一昨年(2018年8月)には、中国の規制・排除を念頭に、AI技術も対象範囲とする先端技術の輸出管理を強めた。中国との技術開発協力や中国IT大手ファーウェイの締め出しやTikTokの使用禁止等、ハード、ソフト両面で中国の封じ込め作戦は先鋭化している。

米中の商品技術の主流争い:日本はデジュール・スタンダードで仲間作り

米国も中国も、いち早く自国主導の先端技術で製品化し、市場を取り込み、マジョリティを得て事実上の標準=ディファクト・スタンダードを目指す米国と中国の競争は、1970年代に日本で展開された家庭用ビデオレコーダーの規格競争に似ている。市場ではベータ(ソニー製)対 VHS(日本ビクター製)の録画規格競争が起きたが、品質重視のべータよりも価格重視のVHSが消費者に受け入れられ、VHSの録画規格標準化が実現した。自動運転車両においても、グローバル市場において、米国の技術を使った自動運転車両と中国のそれとの間で、市場獲得と標準化の競争の構図が想定される。
こうした米中の技術覇権競争の狭間で、AIをはじめとして国際的な特許出願件数で米国や中国を大きく下回る日本が、国際競争力を確保する一つの選択肢として取り組んでいるのが、製品の市場競争ではなく、開発段階で技術の性能や品質の国際共通規格=デジュール・スタンダード作りと普及を通じたビジネス環境作りの試みである。AI搭載製品の安全性や性能の必要要件の基準化や、開発時のチェック項目を記す品質保証のガイドライン化を行い、それを国際標準化するというものだ。
デジュール・スタンダードのメリットは、規格を標準化することで、ユーザーにとっては自動運転車両の品質安全性の担保が期待できる一方で、産業界においては、相互の接続性や低コスト・調達の容易化を通じて関連産業の広がりが期待できると同時に、自動運転車両に必要なAI関連技術の各レイヤーのエコシステムの連関性を強めることによって、競争力を高めることができる。
米国と中国による市場原理に基づく国際競争の勢力図拡大が進行しているが、高い安全性の実現が求められる自動運転車両分野については、技術での高水準の性能/品質を規格化する、日本のこうした取組みは、ある意味、理想かもしれないが、産業と消費者利益の観点からも、推進すべき望ましい試みといえるであろう。

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