顧客接点・アフターサービスにおける中国次世代EVメーカーの動き
~新興EVメーカーNIOを例に~

株式会社現代文化研究所 主事研究員 王体鳴

概要

  • 現在進展中のCASEは、今後も自動車業界に様々な変革をもたらしていくことが想定される。その一例として次世代EV(自動運転車・コネクテッドカー等のクラウドにつながる電気自動車)が顧客接点・アフターサービスに大きな変化を与えることと予想される。その変化の中でも、付加価値を提供し続けることができるような、顧客接点の持ち方や、アフターサービスの在り方が今後求められる。
  • そこで、EV化で先行する中国のトップランナーNIOを例に、中国新興EVメーカーにおける顧客接点の持ち方やアフターサービスの在り方に関する新動向をこのレポートでまとめた。本稿が日本の自動車販売店の経営に示唆を与えられればと考える。

1).中国の次世代EVの特徴とそれが顧客接点・アフターサービスにもたらす変化

中国の次世代EVとは自動運転車・コネクテッドカー等のクラウドにつながる次世代の電気自動車であり、代表的なメーカーは「中国のテスラ」と呼ばれるNIOなどの新興EV会社である。次世代EVはガソリン車と構造的に異なるため、開発・設計のサイクルが短い、部品点数が少ない、ハードウェア中心からソフトウェア中心へ変化するなどの特徴があげられる。開発・設計のサイクルが短ければ、従来のチャネルで顧客の嗜好を把握・反映する方法ではスピード感が足りなくなるため、新しい顧客接点が求められる。また、部品点数が少なくなると、ハードウェアのメンテナンス需要が減るとともに、OTA(Over The Airの略、無線通信で直接ソフトウェアを更新すること)などの普及により、販売店を経由する必要性が減少するため、アフターサービスにおける新しいビジネスモデルを模索する必要が出てきた。

2)NIOの新しい顧客接点の構築:オフライン(店舗)+オンライン(アプリ)

①オフライン(店舗):NIOは従来自動車OEMと違い、直営店と販売代理店を通じて販売ネットワークを構築した。特に、NIOの直営店NIO Houseはショールームだけではなく、カーオーナー専用ラウンジを併設し、コワーキンスペース、カフェ、ライブラリ、キッズスペースなどを設け、自由に使うことができる。華道や親子向けのイベントなどを定期的に開催することで、顧客との交流を深め、彼らのライフスタイルをより理解するとともに、コミュニティ作りの場として役割を果たしている。

②オンライン(アプリ):NIOのスマートフォンアプリはSNSコミュニティ、アフターサービスの予約、オンラインショッピングなどの機能が揃っており、特にSNSコミュニティでは、CEOを含む経営陣が直接に顧客との交流や、顧客行動のAI分析による改善を通じて、顧客体験の向上に注力している。同アプリは現在、NIOの潜在顧客を含む20万人のDAU(Daily Active Users)を維持している。

3)NIOの新しいアフターサービスのビジネスモデル:アフターサービス+バッテリーサービスの定額制パッケージ

①アフターサービス:NIOは25万円/年の定額での点検・修理・メンテナンスサービスや、洗車サービス、運転代行サービスなど数多くの充実したアフターサービスを提供するほか、点検などの時にスタッフが自宅まで車を取りに来るなど手厚くサポートしてくれる。内部関係者によると、90%の顧客がこのパッケージに加入している。

②バッテリーサービス:NIOは車本体への117万円の割引と引き換えに、月額1.6万円の定額でバッテリーリース・充電サービスを提供し、その中には一定量までのNIO充電スタンドとNIO移動充電車での充電や、NIOバッテリー交換ステーションでのバッテリー交換などが含まれる。

4)結び

今は中国よりもEV普及率が低い日本だが、着実に販売店がEVを取り扱う機会は増えていくため、次世代EVがもたらす変化に備え、変革していく時期にある。EVを始めとするCASEトレンドでは、既存事業のディスラプションが着目されがちだが、EV化で先行する中国では、トップランナーのNIOでさえ、オフラインの販売店が顧客接点・アフターサービスで重要な役割を担っている。オンラインサービスを活用しつつ、オフラインの販売店でも付加価値を提供する顧客接点・アフターサービスの在り方が今後求められる。

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担当: 株式会社 現代文化研究所 主事研究員 王 体鳴