技術革新や環境志向を背景とした新商品・サービスの 市場調査に基づく需要の見通し(上)
~消費価値観・新商品受容性調査より~

 弊社上席主任研究員、黒岩祥太が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の8月号 に調査レポートを寄稿しました。関連した考察をご紹介させていただきます。

 なお内容のボリュームが大きいため、今回はそのうちの前半をご紹介いたします。

問題意識

 現在、産業のデジタル化などの技術革新や環境志向の高まりなどを背景として、スマートシティーやMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)から、スマートホームやIoT家電、更にサブスクリプション・サービスやシェアリング・サービスからキャッシュレス決済まで、様々な新商品・サービスの開発と普及が進められている。

 しかしながらこれらの動きは、技術革新や競合企業・ディスラプターとの競争、更には国際的な潮流に沿った政府の政策などに基づくものなどであり、必ずしも国内の消費者の実際のニーズに基づいて進められているわけではない。では実際のところ消費者はどの程度このような新商品・サービスに期待をし、またニーズを感じるのであろうか。

 そこで現代文化研究所では、革新的なものも含む様々な新商品・サービスに対する日本の消費者の今後の需要を把握するための調査と推計を実施した。なお「自動車販売」では自動車領域の新商品・サービスに関する需要推計と考察を記述したが、本稿では自動車領域のみならず、より様々な領域の商品・サービスに対する需要推計も実施し、関連した分野・業界の現在の動向と課題について簡単に説明を加える。

調査フレーム

 全国のインターネットモニターの消費者に対して、20代~70代以上の男女で性・年代ごとに割りつけ、2021年5月に調査を実施した。調査対象者の回収数は、性・年代・地域別に図表1であった(地域区分の定義は図表2)。

 具体的な設問としては、性別・年代・居住地域・世帯年収・家族構成などの属性のほか、主運転車(主に自分で運転する乗用車)やカーシェアリング・サービスなどモビリティ関連のほか、IoT家電やキャッシュレス決済など、近年登場した様々な製品やサービスの保有・利用状況と今後の保有・利用意向などを準備した。加えてまだ現実感は薄いが完全自動運転車や空飛ぶクルマ、車体や内装品等が自由に組み合わせて注文できるオーダーメイドカー、自動運転乗り合いバス、MaaSなどモビリティに関する革新的な商品・サービス、また移動式無人コンビニ、生活支援ロボットや介護ロボット、スマートシティー(への居住)、宇宙旅行など、開発途上の革新的な商品やサービスに対する購入・利用意向も付加した。

 また結果の分析に際しては、図表1の性・年代・居住地域別のケース数を2020年の全国の成人人口の推計値 (参考・参照資料1)にあわせる補正計算(ウェイトバック)を実施することで、日本市場の成人男女約1億460万人においてどの程度の需要が見込めるのかを推計した。

自動車関連商品・サービスの保有・利用者数と今後の意向者数の推計

 最初に自動車関連商品・サービスの保有・利用と今後の意向を確認する。なおここでの今後の意向とは5年後以降の意向と調査票上で定義している(図表3)。

 現在主運転車を保有している消費者数は約5599万人、今後保有したいと考えている消費者数は約5797万人と推計され、差し引き約198万人増加すると試算される。

 なお現保有者数の推計値の検証として、自動車保有台数の統計(参考・参照資料2)を確認したところ、調査と同じ時期である2021年5月末現在の乗用車保有台数(自家用・営業用含む)は、普通・小型と軽四輪合計で約6203万台であった。乗用車には複数保有者がそれなりにいることを勘案すれば、主運転車保有者数としては適正な水準が推計できていると考えられる。

 また現状でカーシェアリングやサブスクリプション・サービスはそれぞれ約423万人と約431万人が、残価設定ローンは約668万人が利用していると推計され、かつカーシェアリングでは現状の2.4倍の約1005万人、サブスクリプションと残価設定ローンではそれぞれ1.6倍の約705万人と約1081万人の消費者が、今後利用意向を持っていると推計される。

 自動車関連商品・サービス自体に対する需要については、どれも現在の保有・利用実態よりも今後の意向の方が大きいこと、特にカーシェアリングはこの観点からみて、より成長の余地がありそうであることが確認できる。

インターネットに関連した商品の保有者数と今後の意向者数の推計

 次にインターネットと関連の深いスマートフォンやタブレット、IoT家電などの現状での保有者数と今後の保有意向者数を推計する(図表4)。

 スマートフォン(iPhone)を保有している消費者は約3903万人、今後保有したいと考えている消費者は約4848万人と推計され、差し引き約945万人増加すると試算される。一方でスマートフォン(iPhone以外)を保有している消費者は約5674万人であり、今後保有したいと考えている消費者は約6195万人と推計され、差し引き約521万人増加する計算である。

 なおスマートフォンの現保有者数の推計値の検証として総務省の報道資料(参考・参照資料3)を確認すると、2021年3月末のスマートフォンにほぼ相当する3.9-4世代携帯電話(LTE)の契約数は1億5437であるが、ここにはBWA(Broadband Wireless Access)の契約数も7505万件含まれるため、差し引いて考えると7932万件となる。iPhoneとiPhone以外の両方を保有している消費者も約867万人いると推計されるが、それを考慮しても、スマートフォン保有者の推計値(3902万人+5674万人-867万人=8709万人)の方がやや上回る数値となる。

 またiPhoneとiPhone以外のスマートフォンの保有者数の割合に関して、確認した範囲では直接的な数値データが存在しないが、グローバルで継続的に実施している調査結果では日本の場合、2021年6月現在でAndroidが57.7%、iOSが42.3%のシェアとなっている。ただし月によって大きな変動があり、概ね半々のシェアと考えることが出来そうである(参考・参照資料4)。

 加えて、スマートフォンの機種別アクセスシェア率を分析している企業によれば、iPhoneは56.75%のアクセスシェア率となる(参考・参照資料5)。

 性・年代別に集計すると、男女とも利用が活発であり買い替えサイクルも早いと考えられる若年層でiPhoneの保有率が高く、高齢になるほどiPhone以外の保有率が高くなるため、購入と保有、あるいは利用と保有といった部分で傾向が逆転するのかもしれない。

 次にタブレットを保有している消費者は約3438万人、今後保有したいと考えている消費者は約4623万人と推計され、差し引きで約1186万人増加すると試算される。これはスマートフォン(iPhone)以上である。

 特に保有者から保有意向者への増加率が顕著に高いのはスマートウォッチであり、1085万人から2281万人に約2.1倍の増加率と推計される。一方で保有者から保有意向者への増加者数の差分が大きいのはIoT家電(エアコン、照明、洗濯機など)であり、約2812万人から約4654万人に約1752万人増加すると推計される。

 逆に保有者と保有意向者が概ね同水準になると推計されるのは家庭用ゲーム機であり、約3086万人から約3063万人の変化である。

 以上、スマートフォンやタブレット、IoT家電などの保有意向について確認した。インターネットモニター調査という性質上、インターネットに関連した商品・サービスに関しては実際の保有人数よりも過大推計されてしまう可能性もある。この点はご考慮いただきたいが、一方で消費者にはどのような商品やサービスにより今後のニーズがあるのかといったことを商品・サービスの横比較や保有者数と保有意向者数の差で確認することなどは可能であると考える。

ITに関連したサービスの利用者数と今後の意向者数の推計

 次に、デジタル技術の進展に即して開発されてきたいくつかのサービスの現在の利用者数と今後の利用意向者数を推計する(図表5)。

 まず楽天市場、ゾゾタウンなどのオンラインショップに関しては、実に成人男女の8割以上にあたる約8622万人が利用していると推計され、加えて今後の利用意向者は約8922万人と、更に約300万人増加すると推計される。ただ増加率は3%程度であり、消費者への普及率という点では市場は概ね成熟しつつあると考えられる。

 次にPayPay、d払い、楽天ペイなどのQRコード決済は、約5109万人が利用していると推計され、今後の利用意向者は約6275万人と、約1165万人増加すると推計される。

 この背景には経済産業省によるキャッシュレス推進政策(参考・参照資料6)などで、消費者にとってQRコード決済することにお得感のある時期があったこと、多くのコード決済事業者が手数料無料を打ち出し、規模の小さい店舗でも導入が進んだことが、普及の追い風になってきた。今後決済手数料の有料化が進み、規模の小さい店舗の離反が進むとしたら、利用意向者は推計されるほどには増加しない可能性もある。

 またNETFLIX、Amazonプライムビデオ、huluなどの動画配信サービスとヤフオク、メルカリ、ラクマ、モバオクなどのフリマアプリはそれぞれ約3355万人と約3062万人が利用していると推計され、今後の利用意向者の増加率は30%強で、それぞれ約4429万人と約4155万人になると推計される。

 関連して、一般財団法人デジタルコンテンツ協会によれば2020年の動画配信市場規模は3710億円であり、コロナ禍での外出自粛などに伴う在宅時間の増加などにより、2019年の2770億円から34%増加したと推計されるとのことである。また今後、テレビのネット接続率が高まることなどから2025年には市場規模は2020年から35%拡大し、5020億円になると予測されている(参考・参照資料7)

 一方フリマアプリに関して、経済産業省によれば、2020 年の CtoC-EC(個人間の電子商取引)市場の規模は1兆9586億円と推計され、これは前年比で12.5%の増加であった(なおここでのCtoC取引には個人間に留まるものではなく、実際にはBtoB、BtoCの取引も含まれていることに留意が必要とのことである)。市場規模の拡大には主にフリマアプリ市場の成長が貢献したとされている。この背景にもやはりコロナ禍があり、外出自粛・ECの利用が推奨された結果、物販系EC市場が拡大したことに伴い、CtoC-ECの利用者が増加したことが挙げられている(参考・参照資料8)。

 ただし実店舗も含むリユース市場自体は2020年の2兆5000億円から2025年の3兆2500億円と30%拡大すると予測されるなど(参考・参照資料9)今後も拡大傾向にあると考えられ、コロナ禍終息後も引き続きフリマアプリ市場は着実に拡大していくと考えられる。

 次に株取引・FXなどのネット金融商品に関しては、約2771万人が利用していると推計され、かつ今後の利用意向者数は約3550万人と約28%の利用増加が見込まれる。

 関連して金融業は「フィンテック」という金融と情報技術を掛け合わせた造語が示しているように、クラウドやソーシャル技術など新しいプラットフォームを活用し、新しい商品やビジネスモデルを通してネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図る、所謂「デジタル・トランスフォーメーション」が取組状況、組織体制ともに商業・流通業の他業種よりも進んでいるとされる(参考・参照資料10)。またスマートフォンを通じたキャッシュレス決済を入り口として、これまで非金融業の企業の参入が相次ぐ形となり、業界の垣根も低くなりつつある。消費者にとって、より敷居の低い商品・サービスが提案されれば、利用意向者の推計値以上に実際の利用者は拡大すると考えられる。

 最後にオンライン出前サービスと、食料品などクルマ以外の有形サブスクリプション・サービスについて、現在の利用者数はそれぞれ約1562万と約1001万と推計されるが、今後は約90%増の約2918万人と約1940万人の利用意向者が見込めると推計される。

 関連してICT総研によればフードデリバリーの市場規模は2018年の3361億円から2019年の4172億円、そしてコロナ禍での外食自粛の影響もあり2020年には4960億円に市場規模を拡大したと推計されている。そして2023年には6821億円になると予測され、この6年間で2倍以上、年率換算で毎年15%強の成長が見込まれている(参考・参照資料11)。また三菱UFJリサーチ&コンサルティングによれば、レストラン業態における出前市場は2018年に4081億円、このうち44%をウーバーイーツ、出前館、ごちクル、dデリバリー、楽天デリバリー、ファインダイン、LINEデリマの主要7社が占めるとしている(参考・参照資料12)。

 以上、今回は既に展開されている比較的に新しい商品・サービス分野を中心に、消費者の保有・利用状況と今後の意向を確認し、併せて関連する業界の動向の概略を記載した。

 皮相的な部分もあるが、幅広に様々な業界に言及した理由は、デジタル・トランスフォーメーションなどといわれビジネスモデルが大きく変化している中で、自動車という一つの産業のみに焦点をあてていては、これからの業種横断的なビジネス動向はつかめないという問題意識、またそもそも消費者の需要・選択(クルマでどこかに出かけるのか、家でスマホのゲームをするか、何もしないのか)という視点に立てば、産業の相違という企業側の事情は問題ではなくなってしまうという理解に基づく。

 また消費者に対するアンケート調査の結果に基づく推計値は、あくまで保有・利用人数の増減であり、かつ現在と今後の保有・利用と意向の有無を確認したものに過ぎず、したがって市場規模自体の推計に対しては、一人あたりの単価・頻度の増減や具体的な利用開始時期の把握、更には性・年代・地域別の人口動態の変化などの影響の加味が不足している。しかしながら現実の消費者の購入・利用意向は期待感のあらわれとも捉えることが出来、また官公庁や各業界の専門機関が導出している各種の推計・予測値と近似した傾向を示しているといった点で、将来の見通しとして一定の意義があると考えることは出来よう。

 次回は完全自動運転車やMaaS(Mobility as a Service)、生活支援ロボットの保有・利用意向や、スマートシティーへの居住など、より革新的な商品・サービスに対する需要を確認した結果と考察を記述させていただく。

参考・参照資料

  1. 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
  2. 一般財団法人自動車検査登録情報協会(自検協)「車種別(詳細)保有台数表」
  3. 総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(2021年6月18日)」
  4. KANTAR社ホームページ
  5. ウェブレッジ社ホームページ
  6. 経済産業省「キャッシュレス・ポイント還元事業(2019年10月~2020年6月)」ホームページ
  7. デジタルコンテンツ協会「動画配信市場調査レポート2021」
  8. 経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」
  9. リサイクル通信「中古市場データブック 2020」
  10. 総務省「令和3年版情報通信白書」
  11. ICT総研「2021年 フードデリバリーサービス利用動向調査」
  12. 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「フードデリバリーサービスの動向整理」

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