カーボンニュートラルに向けたビジネスの変革について/
自販連「自動車販売」

 弊社取締役、白木節生が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人 日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の10月号に寄稿したレポートをご紹介いたします。

1.カーボンニュートラルに向けた世界の潮流

 2050年のカーボンニュートラル達成に向けて世界の動きが急加速している。日本を含め120以上の国が宣言済みであり、世界の潮流に合せ、日本は2030年までに46%削減(13年度比)という目標を宣言した。

 世界のESG投資は急拡大しており、企業が脱炭素に真剣に対応しなければ、金融機関からの資金調達も困難になる圧力も強まっている。
 
 今年7月に欧州委員会が、2035年にハイブリッド車(HV)を含む内燃機関の新車販売を実質禁止する方針を発表。またEUタクソノミー規則では、26年からPHVとHVをサスティナブル投資の対象外にすることになっている。

 ノルウェーは25年の100%EV化を宣言し、今年6月は乗用新車販売のEV比率が65%、PHVを併せると85%に達している。また中国の深圳市では、公共バス・タクシーの100%EV化を既に実現している。
 
 さて日本は、一次エネルギー消費の9割を化石燃料の輸入(15兆円以上分)に依存している。440以上の自治体(総人口1.1億人)が50年までの脱炭素を宣言しており、地域の再生可能エネルギー活用によって地域内に資金を還流させ、地方創生に結び付けようとする狙いもある。
 
 日本のCO2排出量(18年に11.4億トン)は、世界5位(3.2%)で、内訳は発電が40%、産業が25%、自動車を含む運輸部門が18%となっている。

2.エネルギー転換の方向性と課題

 日本は最終エネルギー消費では、73%を熱として、27%を電力として利用している。

 脱炭素に向け、電力は再生可能エネルギー由来へ、運輸・民生・産業部門など熱利用分野は電化を進める方向である。しかし、産業用、なかでも約6割を占める鉄、セメント、化学等では、電化での対応が困難で、水素(扱いやすいメタン化、アンモニア化も含む)、特に再生エネによるグリーン水素の役割が高まる。

 産業用や飛行機・船舶・大型トラック等で、水素が膨大な規模で求められる見込みだが、供給力やコストが課題となる。現状も欧州に対し劣勢にある。

 欧州は再生可能エネルギーに早くから着目し、政策的支援に力を入れ、太陽光と風力の利用環境整備で大きく先行した。
自然変動電源の需給調整技術も進み、化石燃料を下回るコストになっている。

 日本でも再生エネ発電の比率は高まっている(20年で約21%)が、電力システム上の制約等から、50年段階でも比率が5~6割にとどまるとの見方が多い。EUは最低でも8割を目指す。
 
 デンマークの例では、1970年代にエネルギー自給率が1%台だったが、30年先の目標を立てて実現し、2005年には150%も突破。2019年の風力発電比率は47%で、30年には電力の100%再エネ化の見通しを持つ。

3.再生可能エネルギーの種類別の課題と可能性

 再生可能エネルギーは、今後すべての手段を活用して拡大させていく必要があるが、それぞれ課題を抱える。

 転換に向けた実行のスピードが特に重要となるが、開発に要する時間、実現へのコスト、地域内での調達力等が、普及の上で大きなポイントになる。

 太陽光は、資源エネルギー庁の見解では、平地が少なく既に面積当りの発電量は高水準で、今後適地が減少しコストが上昇する懸念などが挙げられている。

 しかし、住宅をはじめ、オフィス・商業施設、農地など、まだまだ設置可能な場所は多いと見られ、 また次世代の薄型・軽量で立地の制約が少ない電池が低コストで開発されれば、適地は大きく広がると想定される。

 例として、大型商業施設では屋根や壁面での自家消費型太陽光発電を増やし始めているが、今後は駐車場の利用も可能性がある。自動車ディーラーでも中古車展示場や駐車場で導入すれば、洗車等の人手が省け、全天候型の施設の快適化にも寄与し得ると思われる。

 また営農型発電(ソーラーシェアリング)も潜在性は高く、農業+発電で農地の生産性を大幅に向上させる可能性もある。農地での発電が可能になれば、全国に広く分布する農地のEV充電インフラ化や、担い手不足の農業の電化・自動化にも発展し得ると考える。

 風力発電は、欧州に大きく後れを取っているが、政府は洋上風力で非常に高い目標を掲げている。ただ洋上風力では北海道・東北等に適地が限られることや、国産メーカーがなく、かつ浮体式を増やす必要性が高い中、コスト面や専門人材など課題も多い。地域単位の小規模な陸上風力も、まだ普及余地は高いと思われる。

 地熱は、世界3位の地熱資源量を有するが、稼働しているのはごく僅かであり、許認可や地元との合意形成などに長い時間を要する点が課題となる。

 筆者はバイオマス資源の可能性に最も着目している。バイオマス資源は資源量も豊富で、発電用にとどまらず、①CO2吸収源になる、②ガス・液体燃料など多様なエネルギー源になる(石炭火力発電所からの転用も可能)、③木材・農地資源を起点に地域経済・雇用を活性化できる、④食料・エネルギー等を自給し防災性も高い国土を形成できる、など波及効果が非常に大きい。本稿の最後にバイオマスを主体とした案を提示する。

4.自動車業界に求められること

 自動車業界では、車両の電動化、及び製造~廃棄までのLCA(ライフサイクルアセスメント)の脱炭素化が求められ、GM、VW、ダイムラーなど、高い目標を掲げるメーカーが増えている。

 但し、サプライチェーン・バリューチェーンを通じたLCAでの脱炭素へ向けては、幅広い関係取引先でも対応が要請され、産業界全体への影響が今後大きくなる。自動車産業でも、素材・車両製造/販売・整備/顧客利用/ 流通・廃棄の全段階で、従来にないリスクとビジネスチャンスが生まれる。
 
 EUでは24年7月からEV用電池の製造から廃棄までのCO2排出量の開示が求められ、使用電源が重要となる。排出の多い電源で生産されたEVは、輸出が困難となる可能性があり、現状の日本の電源構成では不利になる。

 自動車は多種多様の部素材企業が関わり、限られた面積の中で製造大国であるため、再生エネによる電力確保やグリーン水素の確保は難題と予想され、原材料~車両製造段階でのカーボンゼロ化は、難易度が高い。水素が不足すればFCVの普及にも影響する恐れがある。欧米主導で国境炭素税が導入されれば、日本は不利になる可能性が高く、大きなリスクとなり得る。

 水素に関しては、欧州はグリーン水素の生産を重視し、欧州勢が連携して近隣国からのパイプラインでの輸入を構想しており、水素の争奪戦が予感される。

 今後は再生エネ電力による生産力が工場立地の重要条件となる見込みだが、日本は電源の面で不利な状況で、国内産地別の競争力にも影響する可能性がある。立地の競争力の軸の転換は、地域の成長力にも関わるため、留意が必要である。

 CO2排出削減の基準とされるSBT(Science-based target)では、年4.2%(気温上昇1.5℃目標の場合)の削減ペースの基準を示す。(図3)

 アップルは30年までのLCA脱炭素のために仕入れ先に再生エネ電力による製造を要請し、主要取引先の約半数(110社)が応じると表明している。自動車メーカーでも、VWやポルシェが同様の要請を始めており、契約の基準となる方向(応じないと取引困難に)である。

 日本ではトヨタが21年に主要取引先に3%削減を要請した先行例だが、特に厳しい訳ではなく、世界の大手企業がブランドの価値を維持するため、仕入れ先に要請する潮流は今後強まり、取引先の選別に影響する可能性は高い。LCAでの脱炭素という目的から、ディーラーにも影響が及ぶ可能性は高い。

 脱炭素へ向けた政府の支援策という面では、欧州・米国は日本に比べ桁違いの規模を計画している。米国のEV普及策は、自国製のみを補助する条件である。

 またEV普及の鍵を握る充電インフラの設置目標数、最大出力、走行時のCO2排出量を左右する再生エネ由来の充電インフラ整備の面も含めて、欧米に対し量的・質的両面で後れを取る懸念がある。

5.ディーラーがなすべきことと貢献すべきこと

 カーボンニュートラルに向けて、ディーラーが自社の責任として求められるのは、①自社での温暖化ガスの直接排出(スコープ1と呼ばれる)、②他社から供給された電気・熱・蒸気に伴う間接排出(スコープ2)の抑制である。(図4)

 自社での直接排出(スコープ1)は、事業活動でのガソリンやガスの燃焼に伴うものである。具体的な対策としては、事業・オペレーションの効率化による省エネ推進、社用車の電動化と車両利用の効率化、社内会議や商談のリモート化推進等が挙げられる。
 
 間接的な排出は、電力利用が主となるが、具体策としては、再生可能エネルギーによる自家発電や電力の購入、蓄電設備や熱電併給設備の利用、LED照明への転換や節電の推奨等がある。
 
 次にディーラーが貢献すべきこととしては、ユーザーの自動車の使用段階でのCO2排出削減への貢献がある。

 自動車分野ではユーザーの使用段階でのCO2排出量の多さが大きな特徴であり、顧客接点のディーラーの役割は非常に大きい。具体的には、電動車の推奨、エコドライブの推奨、効率的移動サービスの提供等がある。業界全体の課題でもあり、行政や業界からの支援も含め、重点的な対策が求められる。
 
 法人顧客向けビジネスも、今後は車両とエネルギーの活用を含めた脱炭素へのソリューション提供力が新たな競争軸となるだろう。実際に電力・ガス会社がEVやカーシェアのサービスに参入を始めており、法人ビジネスの世界が先行して変化すると予想する。また非常時の電力供給での自治体への協力など、都市の蓄電インフラとしての貢献も期待される。

 なおCO2の排出削減のためには、まずは社内外での排出量の可視化が出発点として重要であり、ブロックチェーン技術も活用し、信頼性ある基準・ルールを備えた仕組みを整備し、LCAを通じたCO2排出量をトレースできるようにすることが求められる。

 そうした中で、ディーラーの関与が高くなるものとしては、リサイクル部品の活用がある。これまでリサイクル部品はニーズも流通量も少なく、光が当たっていなかったが、今後は新品の製造と比べCO2排出を大きく減らせ、循環型経済(サーキュラーエコノミー)に寄与する点から価値が見直される可能性がある。 

 それを見越して、安全安心なリサイクル部品の流通や提供の仕組みを整え、環境に良い製品の推奨で貢献しながら、早めにビジネスのノウハウを磨いていくことも意義があるとみられる。
 
 また車の廃棄段階でも貢献が求められる。EUは先行してEVバッテリー材料の再利用に関し規制を既に予定している。車の廃棄段階でも、今後メーカーと連携しグループ内で管理・活用していく必要がある。EV・HVバッテリーの再資源化の仕組みは未整備で、タイヤや金属類なども含め対応すべき課題は多く、業界責任の遂行と希少資源の有効活用が本格的に求められるようになる。

6.地域活性化への貢献と新たなビジネスへの創出

 再生可能エネルギーの中でもバイオマス資源の有効活用は、自動車産業の競争力維持や地域経済・社会への貢献の面で波及効果が大きいと考えており、関連した対策案をご提示する。
 
 日本は、伝統的に生態系との共生・互恵関係を基盤とした文化が維持され、江戸時代も循環型社会が成立していた。それが明治以降、特に戦後は、一次産業も化石燃料を多用し、輸入資材や製品に依存する構造へと変貌し、従事人口が減少を続け、衰退を続けてきた。

 日本の森林比率は69%で世界2位(15年)で、さらに世界的に見ても栄養に富む(炭素貯留量が多い)土壌に恵まれている一方、森林面積当りの木材生産量は極めて低く(ドイツの約1/8)、資源を生かせていない。その分、特別な技術革新のブレークスルーを待たなくても実現可能なことは多い。

 まず国産木材を住宅などに活用し、木材加工の副産物や残渣を木質バイオマスエネルギーとして活用、更に今後はCO2吸収源としての取引価値も加われば、経済価値を大きく高めることが可能と思われる。但し、林業再生に向け林道の整備、サプライチェーン形成、量産やIT活用による効率追求などが求められる。
 
 海外ではアップルが4月に2億ドルの森林再生ファンドを設立した。CO2排出権取引での収益や、仕入先での脱炭素の25%程度の未達成見込み分の相殺などを狙うと見られている。 
 
 森林再生による環境改善と経済価値向上の重要な起点となるのが、森林の育成・保全活動であり、林業人口が不足する中、地域住民に協力を呼びかけていく活動が求められるが、顧客接点で地域住民との強い絆と発信力・動員力を持つディーラーの役割は非常に期待できる。

 現在はSDGsに力を入れ、地域社会からの支持を得て自社ブランド確立を目指すディーラーが増えているが、この活動は特に価値が高いと思われるし、実際に森林保全を兼ねたイベントを実施し継続している実例も少なからずある。
 
 森林資源の育成が進んでくれば、まずは自動車業界内での貢献が見込まれる。メーカー・サプライヤー工場への再生エネ電力、グリーン水素、カーボンオフセット権の優先的な提供、内燃機関のサプライチェーン(サプライヤーや給油所等)を生かせる合成液体燃料への転換、生分解性素材(内装用など)の提供等の可能性がある。(図2)
 
 次にディーラー自身のビジネスとしては、再生エネ発電装置と電動モビリティを一体化したサブスクプランや、地域住民の出資を募り共同でのエネルギー事業体の運営、遊休不動産の取得や管理を通じた高付加価値化ビジネス(発電用・農地化等)などが考えられる。また脱プラスチックの潮流に沿った生分解型の各種資材の販売や、電力やCO2排出権の取引を含む決済・情報プラットフォームを基にした顧客世帯のライフタイムバリュービジネスの展開などが期待される。但し、商社や金融機関など異業種との連携が実現のために重要となる。

 さらに全国で移動困難者向けに大変多くのMaaS事業が実施されているが、自律的な運営で採算が取れる所まで行くのは非常に難しい。欧州では、地域共同体でのインフラ事業で、公共交通事業での赤字をエネルギー事業での黒字で相殺するのが典型例となっている。日本でも、今後必要度がさらに高まるMaaS事業を持続可能にするためにも、エネルギー事業との一体的運営が有効と思われる。 

 生態系保全とエネルギー自給率向上を通じ、域内での資金循環を高め、若年雇用を創出し、防災性や効率も高い永続性ある安心な地域社会を形成し、次代に引き継いでいくことが願いである。

 こうした新たな脱炭素へ向けたチャレンジには、一・二・三次産業が連携した活動が必要となり、良い先行例が生まれることが理想と考えている。そのため弊社は東京海上日動火災様と連携して呼びかけを始めており、北海道ではあるディーラー経営者のご賛同・ご協力を得て、地元の商工会議所全体で一緒に考えるアクションのトライアルを始めている。

 温暖化に伴い、自然界が本来のバランスを失った影響が足下で様々に出ている。なかでも今世界中で、温暖化の影響で土地が乾燥化し、山火事が頻発して、CO2が膨大に発生。山火事の黒い煤(光を吸収)の飛来で氷河や永久凍土の融解が加速し土壌が流亡、「温暖化」と「砂漠化」の悪循環が加速する影響が深刻になっている。人手を離れた所で進む悪循環は、どの産業にも打撃を与えるため、全産業が協力し、生態系本来の循環を取り戻すための対策が今まさに求められる。

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カーボンニュートラルに向けたビジネスの変革について
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担当: 株式会社 現代文化研究所 白木 節生