【Mobility Forecast】EVバッテリ戦略物資化と我が国の調達等戦略
~脱グローバリゼーションとインドネシアのケース~

ポイント

  • カーボンニュートラルに向けてEVシフトが進む中、国の安全保障にも関わるほど電池が「戦略物資」となっている。
  • 一方、電池のサプライチェーンは脱グローバル化が進み、現地調達が進んでいる。
  • 日本は新成長戦略で調達安定化を狙うものの、後手に回っている感は否めない。関連企業は団体を形成、政策支援強化を要求している。
  • ニッケル禁輸のインドネシア等、EV資源国からの資源を日本企業に利活用できる等、大きなEV戦略が必要。

1)需要急拡大で「戦略物資」となった二次電池

欧米でEV化の動きが加速している。
欧州連合(EU)は、ガソリン/ディーゼル車の新車販売を2035年に禁止する環境政策を打ち出した。これにはHVも含まれる。
グローバル最大の自動車市場・中国も同年を目途にすべてEVといった環境対応車とする。東南アジア・タイやインドネシアでも官主導でEV化にカジを切った。

こうした電動化は温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」のカギとなる。電池の需要は急激に拡大する。クルマだけではない。
再エネ、安全保障、さらに米国が6月に発表した「リチウム電池国家計画」では電池用途に「防衛」が挙がっている。電池は急速に「戦略物資」の性格を帯び始めた。


出所:米国エネルギー省

2)サプライチェーンの脱グローバリゼーションで問われるクルマメーカーの電池調達力

欧米では車載向け電池を中心に、バッテリーサプライチェーン現地化の動きが広がっている。米国は2030年までの実現を目指し、EUは電池生産支援や関連ルールの形成に意欲的だ。
自動車産業は従来、高度なエンジン技術の競争だった。しかしEVシフトで今後は電池の調達力が勝負を左右する。ライバルはもはや他メーカーだけではない。国同士が政策的な支援を競っている。

出所:https://newswitch.jp/p/28118 (原典:日刊工業新聞。同紙は上記米エネルギー省資料から作成)

3)我が国のグリーン成長戦略とサプライチェーン強化

我が国では2021年6月、経済産業省が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」策定を発表している。目的は持続的な成長とイノベーション創出の実現だ。同省自身が「2050年カーボンニュートラルの実現は、並大抵の努力では実現できず」と言い切り、政策を総動員して産業構造や社会の変革を企図する。この中で電力部門の脱炭素化がまず大前提とされ、産業/運輸/業務/家庭といった電力部門以外は「電化」が中心とされている。成長が期待される14分野の5番目に「自動車・蓄電池産業」が措定され、『蓄電池・燃料電池・モータ等の電動車関連技術・サプライチェーン・バリューチェーン強化』が2030年及び2050年に向けた工程表の中に明記されている。


出所:経済産業省

4)欧米/中国に大差をつけられる我が国の生産能力

とはいえ、日本の電池サプライチェーンの競争力は足元で厳しい局面を迎えそうだ。同じく2021年7月に、経済産業省が「第3回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ」を開催。そこで提示された資料(「次世代蓄電池・次世代モータの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性)によれば、欧米や中国、とくに中国と欧州において生産能力が大きく増加する中、我が国の増加幅は欧米/中国に比して極めて小さい。


出所:経済産業省

5)電池サプライチェーン協議会の設立

関連企業を危機感を高めている。この4月、電池部材/原料メーカー、電池メーカーやリサイクル事業者、自動車OEM企業、商社等、50社超が会員となり、一般社団法人電池サプライチェーン協議会(BASC:BATTERY ASSOCIATION FOR SUPPLY CHAIN)が発足した。爆発的に電池市場が拡大する中、電池サプライチェーンの規制/ルール作りに対し、国内審議団体として機能し、「電池サプライチェーン全体での、①グローバル競争力強化 ②グリーン化」に対応する。そして政策要望として『7つの政策要望』を掲げている。

6)脱グローバリゼーションにおけるEV戦略~インドネシアの場合

こうした中、資源を持つ新興国がEVトレンドにおいて存在感を高めようと試みている。例えばインドネシアはEV用電池の原料となるニッケル鉱床が世界最大(24%)、生産量も世界最大(30%)だ。同国はすでにニッケル鉱の輸出を禁止。EVメーカーや電池メーカーが同国のニッケルを利用するには国内に施設を建設しなければならない。報道では中国/韓国や米EVテスラも投資を検討している。その上で、インドネシアは6月、鉱物資源相が2050年以降に販売される乗用車と2輪車につき全てEV及び電動2輪とする目標を発表した。サプライチェーンの脱グローバリゼーションで外資を導入、EV生産国として浮上する戦略といえる。
我が国は9月に「第27回日-ASEAN経済大臣会合」が開催、日本から提案した「日-ASEANイノベーティブ&サステナブル成長プライオリティ」が、ASEAN加盟国から歓迎された、というが、インドネシア等が有するEV向け資源をいかに日本企業が利活用できるかといった点等を踏まえ、メーカー等と協働し大きなEV戦略も必要といえるのではないか。


出所:BASCウェブサイトトップページ


出所:経済産業省 第3回 カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会(4/16)BASCプレゼン資料

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