車の電動化に対する国内ユーザーの意識の実態/自販連「自動車販売」2月号

EV主体の普及支持派は4割に至るが、再生可能エネルギー電源との一体的な普及が不可欠に

弊社取締役、白木節生が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人 日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の2023年2月号に寄稿したレポートをご紹介いたします。

 地球温暖化防止のため、2050年のカーボンニュートラル宣言をしている国は世界で140ヵ国を越えている。また主要な国々では2030年の温室効果ガスの削減目標を掲げており、日本は30年度には46%削減(13年度比)を目標としている。

 世界でカーボンニュートラルを達成するためには、走行段階で多くの温室効果ガスを排出している自動車分野での対策は重要な要素となり、自動車の電動化の動向は、常に世界的に注目される話題となっている。

 日本は、HV(ハイブリッド車)の普及が世界で最も進んでおり、これまでに実質的な温室効果ガスの削減で大きな実績を挙げてきた優等生ともいえる。

 日本の自動車業界側では、温室効果ガス削減の実効性を高めるには、バッテリーEVだけでなく、HV、PHV、水素、合成燃料、バイオ燃料なども含め、各国の事情に合わせた幅広い選択肢によるアプローチが有効との見方を示している。

 一方で、EUや中国、米国の一部の州などでは、走行時に排出ガスを出さないゼロエミッションのEVの普及を最重視する方向性を明確化している。 

  新車市場でも、22年の暦年計で、中国はEV+PHVで689万台(比率で25.6%)、EVのみでは537万台(同20.0%)と日本市場を凌ぐ規模に達し、ドイツも乗用車新車販売に占めるEV+PHVの比率が31.4%、EVのみで17.7%に達しており、ユーザー側の意識も高まっているようである。

 しかし、日本ではEVの保有台数がまだ少ない中で、供給側の戦略やマスコミの見解に関する報道は多いが、実際のユーザー側の車の電動化に対する意識や見方についての情報が十分ではなく、今後の日本市場の電動化進展に向けた展望を描きにくいのが現状である。

 また昨年は、日産と三菱から軽自動車のEVが発売され、好評を博している状況もあるため、現段階での一般ユーザーの意識に関して、弊社が昨年11月に実施した全国の乗用車保有ユーザーへのWeb調査(2202サンプル)の結果を活用しながら、今後を展望する手がかりとなる情報を提示したい。

1.世界の潮流に合わせたゼロエミッション車主体の普及を望むユーザーは4割に

 調査で、「日本で望ましい車の電動化のあり方への見方」に関して、二分法で尋ねた。

 前者は、「日本ではハイブリッド車が主流であり、温暖化対策には日本で取り組みやすい対策を優先した方が良い」という見方で、後者は「長い目で見て、世界の主流に合わせEVなどゼロエミッション車の普及を優先した方が良い」という見方である。

 その結果、前者の見方が6割で、後者が4割となった。(図表1)

 日本では、HVが広く普及しているため前者が多くなることは想定していたが、後者が一般ユーザーの意識では4割に及ぶことは予想以上の結果であった。

2.EVへの指向が足下で上昇

 また「最も理想と考えるエコカーのタイプ」に関しては、22年ではHVが30%と最多で、EVが23%と続いている。

 19年、21年の調査時からの時系列変化を見ると、19年はHVが46%と圧倒的な指向の強さであったが、コロナ後のEVの世界的な普及の影響もあってか、21年にはEVへの指向が急上昇し、22年も国内メーカーのEV投入の影響もあってか、さらに上昇しHVとの格差がさらに縮小した。(図表2)

 一方、PHVは時系列でみても8%の指向で横ばいが続いている。機構的にはメリットが大きいと思われるが、価格の高さやモデルの少なさもあってか、人気が高まらない。

 なおFCV(燃料電池車)は22年調査で2%と存在感が低く、それよりは内燃機関を活用できる水素エンジン車が5%と、期待で上回っているように見える。

 次に、日産と三菱から発売された軽EVのように、「価格を抑えたEVが増えた場合の購入検討意向」については、「検討意向あり」の合計が51%と約半数となった。(図表3)

 都市部で高い傾向だが、特に3大都市圏の中心部と車関心が高い層で検討意向が強く、そうした層がEV市場の牽引役となるのかもしれない。

3.ブランド力のあるEV新勢力は支持を高める可能性も

 国内でも商用車の分野では、中国で廉価に生産したEVを販売する動きが出て来ているが、今後「安価で品質にも問題ない海外メーカーのEVが増えた場合の海外メーカーのEV検討意向」を尋ねた。

 結果は、全体平均で38%と4割を下回る水準であった。(図表4)

 但し、3大都市圏中心部や車関心が高い層では検討意向が5割を超え、「是非検討したい」が30%に及ぶ。

 20~30代の若年層や電動車を保有(HVを含む)している層も、検討意向が高い傾向がみられる。

 さらに、海外メーカーのEV検討意向がある人に「検討してもよいEVメーカー」を尋ねた所、「日本の既存メーカー」が42%とトップで、品質への信頼性の高さが確認できる。(図表5)

 しかし、ソニーが28%、テスラが22%、アップルが21%、グーグルが17%と、ブランド力が高い勢力への期待感もうかがえる。

 今後のEV市場の牽引役となるかもしれない3大都市圏中心部や車関心が高い層では、新興有力勢力への期待感が特に強い点が気にかかる。また20~30代の若年層では、「既存の日本メーカー」への指向が低い傾向がある点も同様である。

4.EVは、自宅充電の利便性と緊急時の電源供給機能が魅力点に

 EVを購入検討する際の見方や条件に関する反応率では、「ガソリンスタンドに行くよりも、自宅で充電できる方が便利」が40%と最も高く、動力充填の利便性は武器となりそうだ。(図表6)

 また「EVは災害時などに電源供給が可能なことにメリットを感じる」も26%と高く、現EV保有者からもその点は高く評価されている。

 なお「充電場所での待ち時間が短い電池交換式のEVがあれば便利」も25%と高い。EVは航続距離の短さと充電時間の長さが大きな課題であるが、中国などで取り組みが進む「電池交換式EV」は、日本でも潜在ニーズはある。

5.EVは、再生可能エネルギー電源と一体的な普及が不可欠に

 日本でも今後車両価格が抑えられ、品質も信頼できるEVモデルの投入が増えれば、普及の可能性はあると思われるが、保有台数が増えるほどに、移動先での公共の充電インフラの利便性が、普及の阻害要因にならないかがポイントになってくる。現状では、EVの保有台数増加に対応する充電インフラ整備のペースは十分とはいえない。

 公共の充電スポットとしてディーラーも主要な位置づけとなるが、現在急速充電器を設置し、他メーカー車の充電にも開放している店舗では、充電用に提供することで経済的メリットが得られる構造にはなっておらず、基本的な課金の仕組みから見直す必要がある。

 またEV普及に向けた根本的な課題として、日本は現状では化石燃料による火力発電の比率が高く、日本の車が全てEVに転換することを想定した場合、電力は圧倒的に不足し現実的でなく、また発電時に大量の温室効果ガスを排出し、EVの環境面の優位性を発揮できない。

 脱炭素社会に向けては、地域内で再生可能エネルギーを最大限増産し、EVもその電源から充電する一方、発電量の不安定さを補うため、EVが「動く蓄電池」として蓄電と需給調整の重要な役割を担うという形での相互の一体的な普及が、本質的な価値を発揮する条件となる。

 調査結果(図表6・7)でも、EVに関しては、自然エネルギーからの充電、電力の需給調整機能、緊急時の電源供給機能、エネルギーと車の統合による経済価値の最大化などが期待されている。

 それらを実現できるよう自動車業界として、国や自治体への働きかけや新サービスの開発などが求められ、一方でHVの普及促進など、脱炭素に向け今すぐ出来ることに注力することも重要となる。

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車の電動化に対する国内ユーザーの意識の実態
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