多摩ニュータウンに従来型の車とは異なる新たな移動手段が生まれる可能性あり!

多摩ニュータウンで自動運転車両の実証実験開始

多摩ニュータウンの独特の景観を形作っているのは、街全体に総延長41kmにわたって整備されている歩車分離道路である。これは、多摩ニュータウンがコミュニティー空間の場から不要な通過道路を排除することを軸とした「近隣住区理論」に基づいて形成され、各住区や公園、商業施設の間にブリッジをかけて車と交差せずに徒歩ないしは自転車で移動できるように設計されているためである。しかも、この歩行者専用道路網は多摩センター駅前や永山駅前のペデストリアンデッキ(高架式の歩道空間)とも接続しているため、あたかもニュータウン全域が拡大したペデストリアンデッキの観を呈している。

実際、多摩市が2017年7月に実施した「市民意識アンケート・交通不便地域アンケート」の調査結果をみても、「買物」という日常的な移動手段として、多摩市の一般地域では「徒歩」19%、「自転車」11%の割合であったのに比べ、交通不便地域(調査時の定義:鉄軌道駅から半径500m以内またはバス停から半径300m以内で高低差が10m以上の地域、鉄軌道駅から500m以上離れた地域・バス停から300m以上離れた地域)では「徒歩」と「自転車」がそれぞれ34%、23%と高い割合を占めている。

しかし今、ニュータウン地域の高齢化の進展により、こうした車に依存しない環境がかえって住民の移動の制約要因となっている。車道と歩道を分離し、団地内に車を入れないよう柵を設けたり駐車場をつくらないようにしているため、かえって徒歩や自転車で移動できなくなった高齢者等がドアツードアでの円滑な移動ができなくなっているのである。

ただし、見方を変えれば、ニュータウン地域内は「閉じられた空間」であるがゆえに、一般の車と並走することが難しい、時速20km未満の低速GMS(グリーンスローモビリティ)や自動運転車両にとっては格好の走行環境であるといえる。今年に入り、ニュータウンでは自動運転車両の実証実験が相次いでいるが(2019年2月、京王電鉄バス㈱と㈱日本総合研究所が諏訪・永山団地で、神奈川中央交通バス㈱とSBドライブ㈱が豊ヶ丘4丁目バス停~スーパーSantoku買取店で、それぞれ実証実験を実施)、このことは多摩ニュータウンが従来型の車とは異なる新たな移動手段(車両)を生み出す可能性を持つ場であることを示しており、今後の展開に目が離せない。

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