世界はアップデートされるが、人間はどうか

3Dプリンタの進化が著しい。産業用から宇宙空間のような過酷な環境下でも稼働するものが取り組まれているが、いま、オフィスにペーパープリンタが常備されているように、ペーパーレス化とともにそれらに代わり、3Dプリンタが常備される日は意外に近いかもしれない。そうした取組みを進め、実績を上げているのがオランダのスタートアップ、Ultimaker社*1である。

同社の3Dプリンタシリーズは、普通のプリンタのようにネットワーク環境下でPCから簡単に数クリックで操作できる。部品も汎用品が使え、造形用素材も豊富で試作品から最終製品まで高品質高機能のアウトプットを手にできる。しかもソフトウェアが定期的にアップデートされ、新たな機能とパフォーマンスの漸次改善が加えられるという。顧客にはVWやFordなどの自動車、シーメンス、ロレアル等が顔をそろえる。いま、PCやスマートフォン(スマホ)で、どのような原理かはわからないものの、当たり前のように利用しているソフトウェアの無線自動更新(オーバー・ジ・エアOver the Air)の技術の適用範囲もどんどん拡大しているのだ。IoTが進めば冷蔵庫もエアコンも湯沸かし器もそうなるかもしれない。

自動車でもその取組みは進んでいる。自動車のソフトウェアの自動更新というと、米国電気自動車(EV)大手・テスラ(Tesla)が思い起こされる。同社コーポレートサイトには「定期的に既存の機能を強化するワイヤレスソフトウェアアップデートがWi-Fi経由で配信され、おこなわれます。アップデートの準備ができると、タッチスクリーンにお知らせが表示され、すぐにインストールするか、後でインストールするか選択することができます……現在のソフトウェアのバージョンは9.0です。」とPCかスマホの製品説明のような案内がある*2。テスラだけではない、日本経済新聞9月25日付けの記事によればCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の取組みの中で日産の3次元マップ自動更新やホンダの制御系システムにおける導入、マツダやSUBARUの事例を挙げている。*3

ここで気になるのがそれを取り扱う人間の方である。PCやスマホのアップデートで、それまでと異なる仕様や機能に戸惑うこともある。とくに安全運転が議論されている高齢者の場合はなおさらだろう。ソフトウェアだけでなく、人間の方もアップデートされれば問題ないのだが、そうもいかない。折しも9月には敬老の日があり、その前日15日には東京・上野で英国ロイヤルオペラのファウスト*4が上演された。悪魔に魂を売り渡して若さと快楽を回復するが、結果的にすべてに悲劇を引き起こす話である。いまのところ、人間の老化による処理能力の低減性を考慮した場合、機器のアップデートをいかに取り扱わせるかが問題だろう。人間の能力に限界はないという見方はあっても、個々人でその能力は異なる。それに合わせた、カスタマイズされたアップデートがあれば尚良いだろう。若い自分を3Dプリンタで再現して、そこにAIを搭載しても、今度は自分のアイデンティティに悩むかもしれない。

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本記事(社員コラム)は、日常の調査・研究活動にて得られた情報、視点により、弊社社員が独自にまとめたものです。当社の見解や立場を代表するものではないことをご了承下さい。

出所

*1 Ultimaker社コーポレートサイト
*2 Tesla社コーポレートサイト
*3 日本経済新聞9月25日朝刊記事
*4 公益財団法人日本舞台芸術振興会