日本型のカーボンニュートラルへの道筋について

~地域資源による内燃機関活用と地域エコシステムの形成~

弊社取締役、白木節生が、正規ディーラーの全国組織である一般社団法人 日本 自動車販売協会連合会(自販連)様の機関紙『自動車販売』の2023年6月号に寄稿したレポートをご紹介いたします。

 世界の多くの国々が2050年のカーボンニュートラル宣言をしているが、その達成にはCO2の排出量が多い自動車分野の脱炭素化は非常に重要となる。                 

 その手段として、世界的にはEV化の推進が主役として語られることが多い。 

 昨年中国では、536万台のEVの新車が販売され、比率は20%に達し、今年4月までもその勢いが続いている。

 ドイツも昨年1年間での乗用車新車販売のEV比率は約18%に達し、日本の1.7%と比べた格差は大きい。

 但し、日本でも日産や三菱の軽のEVが人気を博し、今後モデルが増えるに伴い、比率が上昇する可能性がある。

 一方、日本の自動車業界では、脱炭素に向けては、EV一辺倒ではなく多様なアプローチが有効と主張している。

 そこで今回は、今後の日本におけるEVとそれ以外の動力によるカーボンニュートラルへの道筋と、それに向けた自動車ディーラーやメーカーの役割期待に関して検討したい

1.日本のEV化は.軽やコンパクトクラスが牽引か?

 現在人気を博している日産や三菱の軽のEVは、セカンドカーとして保有するユーザーが多いと聞いているが、弊社のWeb調査(全国の乗用車保有ユーザーが対象)で、世帯でEVの保有を検討する場合の形態に関して意向を尋ねた。

 その回答では「世帯の複数の車のうち、一部でEVを検討しても良い」が39%と全体の約4割を占め、最も多くなった。(図表1)

またその質問で「EVを検討する意向がある」と答えた68%の人を母数にして、「購入を検討する場合の希望のタイプ」を尋ねた所、「軽自動車クラス」が40%、「コンパクトクラス」が27%で、経済性が高い両者を併せると67%と全体の2/3に及んでいる。(図表2)

 従って日本におけるEV化は、軽やコンパクトクラス、なかでも航続距離へのこだわりが少ないセカンドカーの需要が先導役となる可能性がある。

 なおEV保有の利点に関する質問では、「ガソリンスタンドに行くよりも、自宅で充電できる方が便利」という回答が40%と最も高いという結果も出ている。

 給油所数が減少し、女性では共働きで給油所への往来に時間を取られることや、セルフ式ノズルで手が臭くなることなどへの否定的意見も多い。

 日産や三菱の軽EVの購入者も自宅充電を中心とする人が多いと聞いている。 

 今後、太陽光パネルを設置し、自家消費する世帯が増加すると見込まれ、EVの蓄電機能は、その電力需給の調整役としても評価が高まる見込みである

2.EV化による整備収入減少を囲い込みプランでカバーする必要

 今後EV化が進むほど、ディーラーとしては整備単価の低下は避けられない見込みで、EVの販売経験が長い日産では、例えばEVのメンテナンスパックの料金は、同じクラスのガソリン車より価格が4割強安くなっている所もある。しかも、リーフの場合、故障や交換部品の発生も少ない模様で、メンテナンスパックに加入していないと入庫頻度も減り、さらに差が広がる可能性も考えられる。

 そこで、EV化による整備収入の減少をカバーするには、車の販売時からメンテナンス付きリースの契約などで、メンテナンス、保険、中古車の再販などのバリューを内部化する重要性が増す。

 EVは、価格が高く、残価市場も未確立なこと、電池材料の再利用の必要性や車両廃棄までの温室効果ガス排出の管理責任が生じることなどから、リース方式にする意義が高まることもある。

 さらにディーラーとしては、メンテナンス時の接触を維持しながら、ボディコートや有料洗車のサービスを提供したり、家庭用の太陽光パネルや蓄電装置、電力契約とのセット提案など、新たな商材の開発も求められてくる。

 EVの残価はまだ評価が低いが、中にあるバッテリーの機能自体は、家庭用の蓄電池という視点で見た場合に、実は高い金銭価値を秘めている面もある。

3.EV一辺倒ではない自動車動力の可能性

 但しEV一辺倒では、現状の日本の電源構成では発電時のCO2排出量が多くEVの良さを発揮できない上、電力供給量、特に脱炭素電力の供給量は圧倒的に不足する構造的な課題がある。

 将来のエネルギーとして水素が注目されており、自動車でもFCVだけでなく水素エンジン車も有望と考えるが、求められるグリーン水素(再生可能エネルギー電力から生成)は、供給量でもコスト面でもかなり大きな壁を乗り越える必要があり、合成燃料(グリーン水素とCO2より生成)の実用化も時間がかかると見る専門家が多い。

 日本が化石燃料の輸入で海外に流出させている国富はこれまで年間15~20兆円で推移していたが、22年度は35兆円程度まで急拡大した見込みである。

 脱炭素に向けた化石燃料からのエネルギー転換に関しては、クリーンな電力に関心が集中しているが、ガスとして利用しているエネルギーの脱炭素化については、語られることが少ない。

 しかし、ガスを地域の自然エネルギー由来で自給する方法はあり、それは自動車の動力源としても有効である。

 木材の端材や農業や畜産からの廃棄物など地域のバイオマス資源から燃料ガスを生み出す技術は、グリーン水素の生成よりも容易である。またそのガスからグリーン水素に改質する技術も、他の手段よりも低コスト化で有利とみられる。

 日本は森林国ながら、伐採適齢期でも放置されて荒廃が進んでいるが、活用すべき資源自体は全国に豊富にある。

 また輸入する化石燃料のうち電力として利用しているのは一部であり、最終エネルギー消費段階では、熱源としての利用が7割強を占めている。

 今後は熱利用部門も電化を進めることが脱炭素の道と言われてはいるが、鉄鋼・化学・セメント等の業界や、航空機・船舶・大型トラック等の動力の電化は非常に壁が高く、時間もコストもかかる。

 そうした熱利用分野の熱源の脱炭素化が極めて重要だが、バイオマスなら可能であり、そこが他の再生可能エネルギーと異なる特長でもある。内燃機関の車の動力としても、自動車生産工場のクリーンな熱源としても有効である。

 実際にドイツでは、トラック等の動力源として、バイオマスをガス化して精製したバイオメタン(ガス)やバイオLNG(低温で液化)で走るトラックやそのインフラを増やす動きが急速に強まっている。天然ガスのパイプラインなど既存インフラを活用でき、水素の充填より設備費用がかからない利点もある。

 バイオメタンを供給するCNGステーションは数百か所あり、LNGステーションも増設しバイオLNG供給に切り替える予定で、水素による合成燃料実用化までのつなぎとする方針のようである。

4.地域のエコシステム形成に自動車業界は貢献可能

 バイオマスを活用した地域ごとの小規模な発電機(熱電併給型)は、ドイツ、オーストリア、北欧などでは広く活用されているが、日本は一次産業が衰退を続けてきたため、木質バイオマスの発電機も海外製に依存している。

 日本の国情に合わせて作られていないため、故障も多く生産性が低い事例が多いことが大きな課題となっている。

 ドイツのブルクハルト社は、高品質な小型ガス化発電システムの代表的なメーカーだが、発電機にはトラックメーカーMAN社のエンジンを採用しており、自動車の内燃機関の技術力が有効活用されている。

 今後はバイオマスを自動車燃料にも活用できることを前提に、日本の自動車メーカーやサプライヤーがそうした発電機や、燃料生産の基となる農林業の生産性向上を助ける先進機械の開発にまで、目を向けていただくことを願いたい。

 それが実現すれば日本の一次産業の生産性は大きく高まると見込まれる。自然資本の育成から管理、恩恵の活用までの生態系循環が正しく促進され、全国各地の経済活性化や国土保全に向け大きな威力を発揮し、自動車の脱炭素燃料の自給・活用の道も開けるだろう。

 複雑な国際情勢や気候変動から、エネルギー代金の域外流出が一層増加する懸念もあり、エネルギーや食糧の安全保障と価格の安定化は、地域住民の生活維持に直結する今後の重要課題となる。

 自動車業界として企業や住民共同体と連携し、健全な地域のエコシステム形成を主導していくことは意義が大きく、新時代のビジネスの糸口にもなるだろう。

5.地域の脱炭素への啓蒙活動が、SDGs活動のアピールとビジネスの成果に

 ディーラーは、車の販売からメンテナンスを通じ、非常に数多くの顧客世帯と長期にわたり、良好な信頼関係を築いているケースが多い。

 今後、各地域の自治体でも、脱炭素を目指すことは共通の重要命題となっており、地域住民全体に脱炭素に向けた活動への参画を呼びかけ先導する上で、貴重な役割を果たし得る立場にある。

 国としても、脱炭素への方法論として「カーボンクレジット(温室効果ガスの吸収や削減の価値を金銭取引できる仕組み)」の認知促進を図り、国民運動に発展させようという目標を掲げている。

 対応の例として、ディーアイシージャパン(株)では、グリーン電力で自動車整備を実施し、そこで得られた「環境価値」を自社入庫客にポイントとして進呈し、顧客が脱炭素に貢献したことになる仕組みをアプリで提案している。(図表3) 

 このように温室効果ガスの削減や吸収を通し、自社で創出又は購入した「環境価値」を顧客にポイント等で提供することで、参画意識を啓蒙できる。難易度が高い活動でもなく、自社のSDGs活動の旗印としてアピールできる上、入庫促進の実利につなげる意義もある。

 また荒廃が進む全国の森林資源の育成・管理に関しても、森林事業者が温室効果ガス吸収で生み出すカーボンクレジットの購入で、顧客と共に応援するだけでも貴重なSDGs活動になる。

 現在世界的に「アドベンチャー・ツーリズム」として、自然体験を求めた観光に大きな関心が向けられている。

 オートキャンプなど森林空間を活用したアウトドアイベントを実施し、観光需要を含む地域のサービス産業活性化の一翼を担ったり、人手が不足する森林整備にも協力を呼びかけ、地域の生態系を守り自然資本の経済価値を高めるような活動は、ディーラーがなし得る価値あるSDGs活動になると共に、地域活性化に向け今後求められる新規ビジネスの切り口の発見にもつながるだろう。

 ご関心があれば、弊社もご協力いたしますので、お気軽にお声がけ下さい。

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日本型のカーボンニュートラルへの道筋について
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